玉川聖学院の人間学
※本記事は、2014年06月時点での取材内容を基にしています
目次
自分の中の正解を週2回の授業で見つけていく
1993年より取り組まれている人間学は、高校1年生と高校2年生の全員が受ける必修科目で、授業は週に2回あります。
その授業では、「人間ってなんだろう」という答えのない問いに対して、様々な演習や体験を通して向き合っていきます。
高校の学習は基本的に一つの正解を覚えていく学習だとし、「世の中にでたら正解なんてない。自分でロジックを立てて揺るがない自分を築いていくことが生きる力になる」と水口先生。
そのため、人間学ではディスカッションの時間を多くとり「自分の気づき」と「他者からのフィードバック」の双方向の気づきから自分や他人ということを知っていくのだといいます。
高校1年生で行う4つの人間学
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人間ってなに?を考える
初めにすることは、「私ってなに?」を考えること。
それをベースにして、「家族や友だちと『一緒に生きている』こと」や「全然違う人たちと関わること」を考え、そこにある可能性や意味を理解していきます。
「それらを体験や行事を絡めながら一緒に考えていきます」と安積先生。 -
人と触れ合い生きがいを見つける体験学習
2日間に渡り学校近辺の世田谷区や目黒区にある老人ホームや福祉作業所にて体験を通じてグループ学習を行います。
体験後は、人との触れ合いの中で嬉しかったこと、生きがいに感じたことなどをシェアしながら共通点や気づきを話し合い、人との関わり方を学んでいきます。
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学んできたテーマをさらに調べて、グループで発表
生徒たちはグループに分かれ、テーマ別にプレゼンまでの調べ学習を行います。授業で学んできた「高齢者」「障がい者」「異文化」といったテーマを、さらに具体的な内容に絞って調べ、様々な角度から考えディスカッションしていきます。理想の発表は「ミニ授業」になること。
グループで協力することの難しさや大切さを体験することも、この課題の大事なテーマになっています。
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選び抜かれた「100冊の本」から1冊を選び、深く深く読む
「100冊の本」は、教員が選んだ100冊の本から1冊を選び、その内容を6分間でプレゼンするというもの。
本は「生き方」や「人間」について書かれたもので、毎年入れ替わるものもあれば、取り組み開始時からずっと残っているものもあります。
「200ページくらいの本について6分間話すとなると、かなり読み込まなければいけません。これをやると本を読む力がつきます」と水口先生。
また、この取り組みの中で読んだ本によって自己変革していく生徒は毎年多くいるそうで、「自分の生き方が変わっていった子もいますよ」とも。
高校2年生は死を意識して、生きることを学ぶ
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人生の春夏秋冬を学ぶ
高校2年生になると、人生を春・夏・秋・冬の四季に見立て「生」と「死」を考えていきます。
誕生してから子ども時代を過ごし、思春期を経て大人になっていく。
そして、社会に出て母親になったりもして、最後年老いて必ず「死」というものに向き合っていく。
「これら一連の流れを一緒に考えていきます」と安積先生。高校2年生にとって「死」は重すぎるテーマなのでは?と質問すると、「その発達段階において死をどう認識するかは非常に大事なことです。ここは十数時間かけますよ」と水口先生。
じっくりやることで生徒たちは「死を意識することは生きることを意識すること」だと気づいてくるといいます。
「残された高校生活が『貴重な1日』ということが分かってきますよ」とにこり。
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本を使ってグループディスカッション
高校2年生でも1年生と同じ様に、本を使った取り組みがあります。
それはグループに分かれ10冊ほどの本を読んだ後、内容をディスカッションして、30分間プレゼンを行うもの。
「希望」や「生きがい」などといったテーマがあり、それに沿った自分なりの答えを探し見つけます。
クラスメイトといえども、全員立場も見方もそれぞれです。
その中でディスカッションをするため、「これは進路を決めるのにすごくいいです」と水口先生は得意気。こうした人間学の活動から、ディスカッションの方法や出てきた意見を整理してまとめる方法、さらにそれを相手に伝えるプレゼンテーションの経験も積んでいけるのです。
自分の気づきで埋められた授業ノートは宝物になる
人間学には体験やディスカッションの他に、もう一つ重要な要素があります。
それが、振り返りのノート。
授業が終わった後に必ず「何を伝えようとしていたのか」「それに対して自分は何を考えたのか」をノートに書くようにしており、高校1年生では毎回授業後に回収したノートを先生がチェックをしています。
授業の振り返りを書くことで、体験を経験にしていくことができるそう。
「感情は時々によって変わってしまうものですが、体験に通して学んだことは、残っていく。だから授業で気づいたことを、毎回ノートに書かせているのです」と安積先生。
そうするとノートは、振り返った時に「あ、高1の時はこんなことに気づいていたのか」っていうのが分かる宝物になるそうです。
人間学で学び合った仲間が一生の友だちになる理由
人間学を通して生徒は変化しているといいます。
「(生と死について)自分の問題として受け止めるという姿勢になります」と安積先生。
人生が変わったという子はいますか?と聞くと、「人生はこれから作っていくわけですが、『方向性が少し見えてきた』という子はいますよ」と水口先生。
生き方や死などの命の題材が多い人間学。この授業を通して「女性ならではの命に関する敏感さ」を知り、医療系の道を選ぶ子が多くなるといいます。
もう一つの変化として、友達との多くのディスカッションから、友達に対して自分の内面を開くことの抵抗感は少なくなっているそう。
玉川聖学院の生徒たちは「(友達の前で)失敗しちゃいけない」「友達に自分の弱さを出すことは恥ずかしい」ということはなく、友達と共感すること・シェアすることは嬉しいことだという感覚をもっているといいます。
そのため卒業後、人生が家庭や家族の問題でうまくいかないときも、友達に「安心して話していいんだ」という気持ちが通じ合っているそうです。
「これは打算とか、どっちができるとか、成功したとか、勝ち組とか、そういう価値観とは別の価値観が思春期に培われ、耕されているからではないかと思います」と水口先生。
変わらない思いで続けてきた人間学の今後とは?
今後も世代が変われば、今までと同じように教材や題材は変わっていくだろうといいます。
ただ、やはり目指すところは変わりません。
生徒が、「自分で考えること」「考えたことを客観的に見て実現していくこと」はベースとして残っています。
また、「人間の多様性とか、人間は成長していく存在で最後の一瞬まで成長する存在なんだっていう部分はしっかりと伝えていきたい」と水口先生は決意を強めます。
この記事で紹介した学校はココ!
玉川聖学院 中等部・高等部
東京都世田谷区にある女子の中高一貫校で、高校からの募集も行う併設校。社会で活躍できる女性の育成のため「かけがえのない私の発見」「違っているからすばらしいという発見」「自分の可能性、使命の発見」の3つを教育方針の柱としている。また1993年より、キリスト教の世界観に立って取り組む人間学を展開している。
編集後記
生徒だけではなく、保護者の方にも続いていく取り組み。人間とは?生きていくとは?について考えていきます。取材中に見せてもらった生徒が授業中に取りためたノートはすごく分厚くて驚きました。また、投げかけられた問いへの生徒なりの答えがビッシリとあり、先生のおっしゃるように宝物になるのも頷けます。