かえつ有明中高のLanguage Arts
※本記事は、2014年05月時点での取材内容を基にしています
目次
始まりは世界基準に則るため
Language Artsは2015年度に新たに高校クラスに導入されます。
既に帰国生に対して取り入れているものを、「学びの本質をついていく考え方」として展開していきます。
導入に至る考えとしては、昨今のグローバル化の流れがあります。
グローバルに発信するときは、世界共通のフォーマット(型)に沿い英語で発信しないといけません。
なぜなら、そうしたルールに則らないとメッセージを受け取ってもらえないからだといいます。
日本人にだけ通じるように英語を使ったとしても世界の人々にはなかなか通じないそう。
そのため、「一旦はそうしたルールに則り、『徐々に日本化していこう』という作戦が必要です」と山田先生。
しかもアメリカやヨーロッパの国々とは異なり、日本の教育ではそうしたルールを学びません。
そのため、そのルールをトレーニングによって身に付けることが必要なのだといいます。
その中で、言葉の表現方法や見せ方を学び、言語をツールとして使いこなす力を身に付けていこうと始まったのがLanguage Artsなのです。
Language Artsは海外の国語
「Language Artsは、『海外の国語』のようなもの」
山田先生はLanguage Artsをこう表現することがあります。
これは(米国などの)海外の「母語での授業」という意味で、日本の国語の授業のイメージとは大きく違います。
「日本の授業は教科書に沿った講義中心の形で進められますが、海外はそうではありません」と留学経験もある山田先生。
海外では、教員が提示するテーマに対して生徒たちが問題や課題を見つけ、それに対する答えを導いていきます。
その授業を通して、多くの事を学びます。
例えば、
- 書籍やインターネットを使ったリサーチの方法
- 文学作品、新聞の読み方
- 議論・ディスカッションの作法
- 作文・レポートの書き方
- プレゼンテーションのやり方
などで、これら母語の使い方が「Language Arts」だといいます。
このようにLanguage Artsは、何かの授業というのではなく授業のベースとなる概念なのです。
Language Artsは教科横断型
Language Artsは概念として存在しているので、「ひとつの授業」というものではありません。
そのため全ての教科にあてはまります。
山田先生は、他教科の先生方と「どんどん連携してやっていきましょう」と話しているそう。
とはいえ、新しい取り組みのため、全教員がすぐに対応できるわけではありません。
「(他の教科教員と)お互いに学びながら、作っていくことになると思います」と山田先生。
コンセプトは山田先生中心のプロジェクトメンバーから提示し、中身となるコンテンツはそれぞれの教科の先生に決めてもらいます。
ただ、初期の段階ではフレームワークは壊さないように、とお願いしているそう。
実は、これは以前より併設する中学校で取り組んでいる総合学習の時間と同じやり方。
Language Artsは既に実績のある取り組みを高校生用に昇華させており、全教科と連携するように考えられています。
Language Artsはフォーマット(型)
Language Artsは世界共通のフォーマット(型)を学ぶという意味でも大きな役割を果たします。
こうしたフォーマット(型)を学ぶ授業というのは、以前は日本でもそのための教科書があったといいます。
山田先生は「いつの間にかなくなってしまいましたね」と嘆きます。
日本には型を大事にしてきた歴史があります。例えば武士道や書道なども、まず「型」から入ります。
山田先生は「僕たちの心の中に脈々と受け継がれているものは、型から始まるものがたくさんある」とし、また「そこを乗り越えたときに創造性がでてくるはず」とも。
そのため日本の教育現場では、きちんと型から入り経験を積んだ上で壊していく「守破離」を目指した方が、より本質に迫れると考えています。
Language Artsはそのためのフォーマット(型)であり、生徒たちが培ってきたものを壊すためのステップでもあるのです。
Language Artsはもうひとつのチャンネル(思考回路)
言語は思考として、文化に繋がります。
つまり、英語で育った人と日本語で育った人では考え方自体が違って当たり前なのです。
「私は日本人としての思考を否定しません。しかし言語の音声を英語に変えたとしても、日本人の思考では(海外の人には)なかなか伝わりません」と山田先生。
日本人特有の「これで伝わるだろう」と結論を濁した伝え方をすると、「So What’s your point?(で、何か言いたいの?)」と聞き返されてしまうそう。
世界に発信するためには、世界基準に合わせたチャンネル(思考回路)をもつ必要があるといいます。
「こちらが持っている知識とか感性を伝える場合も、(向こうの文化に)のっかってあげないと伝わっていかない。
一旦伝われば、その後は大丈夫ですけど、手前で受け入れてもらえないと全く聞いてもらえませんね」と山田先生。
そのため、ネイティブとの会話はネイティブに伝わる話し方にチャンネル(思考回路)を変える必要があるのです。
そのチャンネル(思考回路)もLanguage Artsで身に付けていきます。
Language Artsは語りつくせない
取材中、隠すことなく話してくれた山田先生ですが、Language Artsを人に伝える際は毎回苦労しているそう。
「Language Artsの全てをカリキュラムとして書き表すことはできません」とも。
全ての学びに関わる”概念”なので、細部までの全てを書くことは難しいといいます。
またLanguage Artsのことを一言で言い表すこともできません。
「集約した言葉で抽象化した瞬間に、受け取る方の様々なバイアスや思いがそこにのります。そうすると本当に考えていることと違うことになってしまうことがあります」と山田先生。
ですので、今回紹介できたのもLanguage Artsの一部分。まだまだLanguage Artsは奥が深く語りつくすことはできません。
2015年度から始まるこの取り組み。
生徒たちの反応はどうなると思いますか?と聞くと「分からないですねぇ、楽しみです」とにっこり。
ただ、広報的にはLanguage Artsの認知活動をしているため、入学してくる生徒たちの頭の中にはあるだろうといいます。
「なので、あまり心配はしていませんね」と自信たっぷりです。
世界に通用するグローバルリーダーは、校庭から飛行機が見えるここ有明から生まれるのかも知れません。
この記事で紹介した学校はココ!
かえつ有明中学校・高等学校
東京都江東区にある中高一貫校で、高校からの募集も行う併設校。共学校だが、授業は別学として男子・女子それぞれに適した指導法を展開している。中学・高等学校の教育理念となっているのは女子教育時代の理念を分かりやすく説いたもので「怒るな 働け」である。
編集後記
グローバルに対応する、というだけでなくグローバルに対抗するためのプログラムだと感じました。英語を話せる、だけでは足りない。英語での発信のルールを知り、より効果的に発信する方法を学ぶ。私は、単にグローバル教育というよりも、その一歩先の取り組みだと思います。