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合格を勝ち取るメンタルのつくり方



日本学園中高の創発学

日本学園中高の創発学
歴史のある男子校「日本学園」が行う壮大な取り組み。第一次産業から驚きを学び、人脈ネットワークを使って職業を学ぶ。その先にあるのは「創発」。自らが創造し、発信できる力を養っていきます。なぜ、日本学園の生徒たちは、創造し発信していくことができるのか?広報室長の谷口先生にお話を伺いました。

※本記事は、2013年11月時点での取材内容を基にしています

創発学とは、成長段階に合わせた多くの体験学習

校門前の編集部
取材に訪れた編集部

創発学は、感性を磨き自ら創造し発信する力を身に付けるという目的の取り組みです。日本学園では、これと「学習プログラム」の2つを教育の信念とし、中学校生活の3年間、そして学園生活の6年間を形作ります。

そこには学習プログラムだけ充実していても中等教育としては不十分という考えがあります。幾度の試行錯誤と議論を重ね、2003年に創発学は「生徒の成長段階にあわせ、多くの体験学習を取り込む」今の形になりました。

創発学は、「フィールドワーク」と呼ばれる体験型のプログラムと、「キャリアエデュケーション」と呼ばれる職業調査を通して自己探求を行うプログラムから成り立ちます。そして、それらのプログラムから学んだ「知恵」を発信する機会を多く設け発信力の向上を目指します。

初めての創発。“木の香り”を持って帰るためには??

創発学のスタートは、入学式の約1週間後始まるオリエンテーション合宿です。オリエンテーション合宿は6年間をともに過ごす仲間たちとの親睦を深めるためのもの。その中で生徒たちは林業体験をします。林業については事前に学習しており、当日は「どう切り倒すのか」を学び、6~8人の班員が協力して1本の生木を伐ります。

林業体験中の生徒たち
林業体験

合宿が終わると、生徒は一人ひとり体験をまとめ、新聞にするのです。個人でまとめさせるのは「個人力を見たい」という先生の狙いと、後の合評会で「自分と相手の得意を見つける」という目的があるからです。

新聞制作を見越した先生は、生徒たちが体験現場いるときから難題をぶつけるといいます。
「このヒノキの木の香りを、ここに来ていない母親に伝えなければいけない。どうしたらいいと思う?」

まずはなんでもいいから発言をさせます。「無理だよ!」などの否定的な意見もでますが、その中からこんな答えが返ってきます。

「先生、切った木の一部をスライスして持って帰ってはだめですか?」
それを新聞に貼って、香りを伝えたいと考えた生徒がいました。

谷口先生は思わず「えらい!」と褒めたと、嬉しそうに笑います。まさにこの瞬間に、自らが考えて発信するという「創発」があったからです。

魚が食卓に並ぶまで。実際に見て理解する

彼らの創発学は、まだ始まったばかり。夏休みには石川県金沢市の能登にて、漁業体験もしくは農業体験が行われます。年度によって順番は違いますが、1年時と2年時の夏休みを利用して、地元で漁業や農業を営む方々の普段の生活をそのまま体験します。

たとえば、漁業体験の場合は、漁に出て魚を獲り、それが競り市でどのように販売されるのかまで見学します。一貫して体験することによって、家庭で食卓に並ぶまでの流通過程が想像できるようになるからです。もちろん、漁業体験での漁獲網の整理や、農業体験での早朝の草取りなど、仕事の準備までをも体験します。

漁業体験をする生徒たち
漁業体験

「想像の届かない机上だけの勉強だと、ただの知識にしかならず、理解することまではできません。働いている人はどんな手だったか、家や佇まいはどんなだったか。そこまで感じ取ってほしい」と谷口先生。

これらの体験終了後は、秋の学園祭に向けてグループごとに新聞を制作します。発表する機会をできる限り多く設けるのが日本学園流です。

驚きが多く発信力に繋がりやすいから第一次産業

日本学園は、中学生という多感で心が動きやすい時期にこそ、現場体験が重要だと考えています。「彼らはまだ幼い。どんぐりを見ただけで面白がることができる。これが男子のチャンスなのです」と谷口先生。

驚いたことが、発信力につながります。また、驚きがなく人に伝えようという動機が弱いと、いわゆる「お勉強」になり、「義務感」や「やらされている感」を抱いてしまうといいます。「自分が面白いと思うものを、人にも共有したい」という気持ちが大事なのだといいます。

既に気づいた方もいるかも知れませんが、日本学園の体験学習は「第一次産業」が多く採用されています。
「なぜ第一次産業ばかりなのか?」と質問したところ、「自然に近いほうが、五感に響きやすく、感じるものが多いでしょう」とのこと。
木の香り、魚のぬめり、土の感触。確かにそうかもしれません。

伝統校の歴史がなせる業。人脈ネットワークを活用したキャリア教育

中学2年生からは、職業について調べて発表するキャリアエデュケーションが始まります。
「好きなものから入ってもいいですが、ベースには『職業』がないといけません。」と口調を強めます。

はじめはOBや保護者の方から話を聞き、「知恵」をもらいます。
その後、「15年後の自分」を頭に描き、どのような職業につき、そのためには何が必要かを考えます。そして、生徒たちが「話を聞きたい」と思った人にアポイントをとり、インタビューを行います。

インタビューする生徒たち
キャリアエデュケーション

しかし当然最初は、生徒たちはアポイントの取り方さえ知りません。「それを考えていくのも創発学です」と谷口先生。

まず生徒たちは、親などの身近な人から「お目当ての人を紹介してくれる人」を探します。しかし、身近な人脈ネットワークだけでその人に行き着くことは、ほとんどありません。

そうなると先生は、「自分のネットワーク上の人にも、別のネットワークがあるんだよ」とアドバイスをします。そのアドバイスを受けた生徒たちは友達の家に手紙を書きます。そうすると友達の親から、「○○君はこういうことやるのか、面白いじゃないか」と賛同していただき、協力してもらえるケースがあるからです。

それでも、ダメなら日本学園の先生たちにも同じように手紙を出します。ここまですると、大体お目当ての人に行き着きます。もしそれでも紹介者が見つからない場合は、日本学園のOBネットワークを使います。100年以上の歴史を持つ伝統校ならではの力強い味方です。

こうしてお目当ての方を紹介してもらった生徒たちは、職員室の電話から取材日時の調整を行います。緊張する生徒には、周りの先生たちが「いけ!いけ!」と後押しをします。

「(取材日時は)いつがよろしいでしょうか?」など、生徒たちから普段聞いたことがない丁寧な言葉が出る、と嬉しそうに笑います。

矢を受けて、打たれ強くなる。先生も舌を巻く発表

中学2年生から1年以上にわたって調べた「15年後の自分」。最後に待ち受けているのは「論文研究発表会」での、生徒一人ひとりの発信です。
その発信を受け止める観衆は日本学園の中学1年生と2年生、それに保護者達です。

論文研究発表会の様子
論文研究発表会

この発表会には質疑応答と採点大会が設けられており、発表後の生徒たちには先生から矢のような質問が飛んできます。その鋭い質問に、思わず黙ってしまう生徒もいます。

「打たれ強くなりますよ」と嬉しそうに笑います。

なかには専門的なところまで調べている生徒もいて、その返答に先生が驚くケースも少なくありません。採点大会の優秀者は中学校の卒業式で表彰が行われますので、彼らが盛り上がらないわけがありません。

最後に、谷口先生は創発学の核心たるものを話してくれました。「創発する生徒を育てるためには、教師に創発力がないと無理です。創発力の根源にあるのは”面白がれる能力”です。それは教師も生徒も同じです」

創発学は今まで進化を続けてきました。完成形に近づきつつある今も進化を続けています。この創発学が完成されたとき、教育にどんな変化が起こるのか、楽しみに、見守っていきましょう。

編集後記

壮大で、伝えきることが難しい取り組みです。感性を育て、発信する力を体験から身につけさせるもので、これを経て子ども達がどう成長していくのか楽しみでなりません。取材中に伺った、「成長した生徒たちの成長ぶりに母親たちが驚く」というエピソードが印象的でした。

この記事で紹介した学校はココ!

日本学園中学校・高等学校

日本学園中学校・高等学校

東京都世田谷区にある男子の中高一貫校で、高校からの募集も行う併設校。1885年設立、多くの著名人を輩出する歴史ある学校である。「心とからだの安全を守る」「知を涵養し学力をつくる」「個の力を高め自主・創造の実践力を高める」の3つを追求すべき規範として掲げている。