小野学園女子中高のサイエンスオープンキャンパス
※本記事は、2013年10月時点での取材内容を基にしています
受付初日に予約で埋まる人気の実験を、生徒がつくる
2013年7月、140人もの小学生が参加したオープンキャンパスがあります。その壇上に立つのは、中学1年生から高校2年生の中から選ばれた生徒たち。生徒たちが先生となって、訪れた小学生たちに10種類以上の理科実験を実演します。
これは小野学園で、「生徒の理科実験に対する理解度の向上」と「理科教育を発表する場」の2つを目的に2005年にスタートしたサイエンスオープンキャンパスです。
当初は大学の先生を講師に招いて、生徒は補助役として実験のサポートをしていました。ところが、2009年には生徒が主体的に動き出し、今では実験の説明方法から進め方、楽しませ方にいたるまで、全ての工程を生徒が作りあげています。
その成果は来場者数として表れており、人気の高い実験は初日で予約が埋まってしまうほどの盛況ぶりです。
先生も驚く生徒の成長率。生徒に任せ、主体性を育むのが秘訣
サイエンスオープンキャンパスでは、学年を跨いだ12~15人の生徒が1つの実験グループを作ります。多くの場合、年長者がリーダーシップをとり、役割分担を決めて実験を進めます。
生徒たちは1カ月以上前から準備に取り組みますが、その間に教員が関わるのはたった1回、リハーサルでチェックするだけです。生徒だけで試行錯誤を繰り返し進めることで、生徒の主体性を伸ばすことが狙いです。
授業や講習、部活など、メンバー全員が集まれる日がほとんどない中で、集まることができた生徒たちは実験を繰り返し、「どうすれば成功するか、どうすれば失敗するか」を体感的に学んでいきます。多くの成功と失敗から実験の仕組みを理解するため、来場者した子どもたちに生徒自らの言葉で体験を伝えることができます。先生の教え通りに実験を成功させるだけでは、人に教えることはできません。
こうした取り組みの中、「この子は、こんなことも出来たのか!と驚くことがあります」と比嘉先生。ある生徒のエピソードを語ってくれました。
高吸水性ポリマーの実験を担当した生徒はハーサルでは吸水性について図を使って説明をしました。充分に理解できる内容でしたが、彼女は自らの説明に納得ができず、本番では別の方法で説明しました。その方法とは、みかんを容れるネットを高吸水性ポリマーに、テニスボールを水に例えた説明です。「水を吸収すると膨らむ」という変化を、ネットにボールを入れることで直感的にわかるように工夫したのです。その結果、説明が伝わりやすくなったのは言うまでもありません。
※高吸水性ポリマーとは、水分保持性が高いもの。紙おむつや生理用ナプキンなどの吸水体に用いられる。
社会に出たときに必要な、指示の出し方と受け方を体感的に学ぶ
サイエンスオープンキャンパスには生徒の成長を促す効果があります。人前で発表することを目的にするため、相手の立場に立って考えて伝えることができるようになるため、「理系ではめずらしくプレゼンテーションのうまい生徒が育ちます」と比嘉先生。
さらに、中学生と高校生が同じ目的で活動することでさまざまな相乗効果が生まれます。中学生はサイエンスオープンキャンパスを経験している高校生をお手本にして、高校生に近づこうと努力します。高校生は後輩に応える形でリーダーシップを発揮して、プロジェクトを「仕切る力」を身につけていきます。
そうした中で、「なかなか、自分が指示した通りに動いてくれない」と先生に相談にくる生徒もいるそう。先生は相談にきた生徒に、「指示の仕方に問題はなかったか」と指摘をし、なかなか動かない生徒には主体的に動くように促します。「これは社会に出たときに、必ず役に立つ教えです」と比嘉先生。人を動かすためには具体的な指示が必要であること、自分から指示を仰いで行動することの大切さをそれぞれに伝えます。
生徒にほぼすべての工程を任せるからこそ、「社会に出て役に立つ子が育っています」とも。主体性やプレゼンテーション能力、リーダーシップなど、サイエンスオープンキャンパスの中に、こんなにもたくさんの学びがありました。
この記事で紹介した学校はココ!
小野学園女子中学・高等学校
東京都品川区にある女子の中高一貫校で、高校からの募集も行う併設校。
「どっちもできる育成」を教育のねらいとしており、社会、家庭の両方で生きていくための教育を展開している。
また理数系の教育に力を入れており、生徒たちは多くの実験から体験的に学習していく。
編集後記
限られた時間の中で、成功と失敗を繰り返し、体感的に学ぶ取り組み。この学ぶ姿勢を生徒自らが作りだしたというから、すごい。「ホタルプロジェクト」に引き続き、「我が校の自慢は生徒です」と胸を張る先生方が印象的な取材でした。